ポルノグラフィックな関係

2000/05/29 メディアボックス試写室
セックスだけと割り切った関係から恋が生まれそうになるが……。
セックスより恋愛感情の方が厄介なのかもね。by K. Hattori


 恋愛や結婚といった人間関係のわずらわしさなしに、純粋にセックスだけを楽しめるパートナーがほしい。といってもその手のプロを相手にするのは味気ない。自分と同じような普通の人と、セックスに対する同じような幻想を共有しながら、思うままにセックスができたらどんなに楽しいだろうか……。そう考えたひとりの女性が、雑誌にパートナー募集の広告を出す。やがて現れたひとりの男性。ふたりは互いの名前も住まいも知らぬまま、毎週木曜日にカフェで落ち合い、近くのホテルでセックスを楽しむようになる。主人公の女を演じているのは『パパラッチ』『エステサロン ヴィーナス・ビューティ』のナタリー・バイ。男を演じるのは『ニノの空』のセルジ・ロペス。監督はベルギー出身のフレデリック・フォンテーヌ。1968年生まれという若い監督です。

 人間はある程度年をとってくると、「セックスだけの割り切った大人の関係」というものに憧れるのではないだろうか。もしそんなものがあり得るのだとすれば、それほど都合のいいものはない。いい年をした大人が今さらセックスを罪悪視してもしょうがないし、セックスなど不要だと粋がったところで誰も誉めてくれない。でも世間ではセックスを「恋愛の果実」と見るような風潮があるし、セックスだけの関係を「ふしだらで不道徳」と見る向きもある。でも恋愛はいろいろと手間もかかれば時間もかかる。結構面倒くさいのです。恋の面倒くささを端折って、信頼できるパートナーと純粋にセックスだけが楽しめれば、それはそれで理想的な男女関係かもしれない。この映画の主人公たちは、まさにそうした男女関係を作ろうとした。そして一時はそれに成功する。

 「セックスから生まれる愛」というテーマは過去にもいくつかの映画で取り上げられているもので、この映画でも主人公たちは同じような道をたどる。セックスだけの割り切った大人の関係は、やがて相手に対する不快信頼と相互依存、相手のことをもっと知りたいという好奇心、パートナーを失ってしまうことに対する恐れなどを引き起こす。一緒にいるときの充実感と安堵感は、ひょっとしたら恋なのかもしれない……。

 この映画にはセックスシーンがほとんど登場しませんが、セックスの後の満たされた気持ちや、互いの身体に対する愛おしさのようなものがたっぷりと描かれている。ふたりの関係はセックスから始まるわけだから、この物語自体が「セックスの後の男女関係」を描いている。ひとつひとつの逢瀬の描写も同じ。ふたりの性行為そのものはこの映画のテーマではなくて、ふたりがその後で相手に何を感じ、何を求めようとしたのかがテーマになる。乱れたシーツの触感や、セックスの後の少し汗ばんだ肌の手触りなどを丹念に描くのはそのせいでしょう。エッチなシーンを期待するとガッカリする映画だと思う。

 ラストシーンは「これだからフランス映画は……」とため息が出てしまうようなもの。アメリカ映画ならこんな終わらせ方はしないぞ。これはこれで好きだけど。

(原題:UNE LIAISON PORNOGRAPHIQUE)


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