ディル・セ
心から

2000/05/24 映画美学校試写室
マニ・ラトナム監督の社会派ミュージカル大作。
ヒロインを反政府テロリストにした野心作。by K. Hattori


 『ボンベイ』のマニ・ラトナム監督が、『シャー・ルク・カーンのDDLJ ラブゲット大作戦』のシャー・ルク・カーンと『ボンベイ』でヒロインを演じたマニーシャー・コイララ主演で撮った社会派ミュージカル大作。脚本・製作もマニ・ラトナム監督自身が担当したほか、『エリザベス』のシェーカル・カプール監督が製作に名を連ねています。音楽は『ムトゥ踊るマハラジャ』『ボンベイ』『ジーンズ』のA・R・ラフマーン。

 国営ラジオ局勤務のアマルは、列車待ちのホームでひとりの若い女性に出会う。その美しさに目を奪われた彼だが、一言二言彼女と言葉を交わしただけで離ればなれになってしまった。「世界で一番短い恋の物語だ」とため息を付く彼だが、取材先の小さな町で彼女に再会。だが彼女は「人違いです」と言って去ってしまう。諦めきれないアマルは彼女の行方を追うが、彼女には「じつは結婚している」と言われる。それでもアマルは諦めない。謝罪する名目で再び彼女のもとに向かったアマルは、従兄弟と名乗る男たちから袋叩きにされる。どうやら彼女が結婚しているというのは嘘らしい。彼女はなぜ嘘を付いてまで彼を避けようとするのだろうか……。

 この映画はインド国内で活動するテロリストを描いている点が、非常に画期的かつ野心的な映画なのだそうだ。マニ・ラトナム監督本人は『ロージャー』という映画でカシミールの反政府ゲリラ活動を描いているが、ゲリラやテロリストが主役というわけではなかった。『ディル・セ 心から』は、テロリスト側がインド政府に持つ不信感やテロリスト側の論理に大きく踏み込んでいる点がユニークなのかもしれない。主人公たちのひとりはごく普通の一般市民で、国の発展や体制のあり方に何の疑問も持っていない人物。もうひとりは幼い頃に心に受けた傷からゲリラ活動に身を投じ、テロリストとしての道をまっしぐらに突き進んでいる人物。相容れることのないふたつの世界にいる人間が出会って恋に落ち、ふたりは互いの世界を理解し合おうとする。

 僕はマニ・ラトナム監督の映画を何本か観ているけれど、最初に観た『ボンベイ』にひどく感動した以外はどれもいまひとつという印象だ。この『ディル・セ 心から』もやはり同じ印象を受ける。『ボンベイ』が感動的なのは、ヒンドゥーとイスラムという宗教対立をまず最初に主人公たちが乗り越えて結婚し、やがて双方の家族も対立を乗り越えて和解するという部分を物語の前半に置いたこと。家族の平和とその後に起きる宗教対立の暴動を対比させることで、人間の愚かさや個人の努力で実現できる平和の小ささと尊さをしっかり描いていた。でも『ディル・セ 心から』にはそうした和解の余地が少しもない。主人公たちの選んだ結末は悲しすぎます。

 話は暗いけれどミュージカルシーンはじつに楽しい。特に映画冒頭にある「チャイヤ・チャイヤ 愛の影」で繰り広げられる列車の上のダンスはすごかった。走る列車の上で飛んだり跳ねたりする。すげ〜。

(原題:DIL SE..)


ホームページ
ホームページへ