ミッション・トゥ・マーズ

2000/04/25 イマジカ第1試写室
火星で遭難した仲間を救出すべく旅立った4人の宇宙飛行士たち。
デ・パルマ監督には向かない素材だったか? by K. Hattori


 西暦2020年。人類初の有人火星探査機マーズ1号の乗員たちが、火星探査中に行方を断った。乗組員4名のうち3名は死亡した模様。残る1名の乗組員を救出すべく、マーズ2号による救出ミッションが動き出す。

 主演は『アポロ13』のゲイリー・シニーズ。救出隊のリーダーを演じているのはティム・ロビンス。お話は今どきにしては珍しい本格SFで、映画の中には古今東西のさまざまなSF映画や宇宙開発ものの要素がぶち込まれている。おそらく製作者たちが一番意識したのは、今や古典となっている『2001年宇宙の旅』だと思う。オープニングのガーデンパーティや宇宙船が遭難するという話は『アポロ13』や『ライト・スタッフ』などの実録宇宙開発ものにも出てきたし、『未知との遭遇』的な要素もある。最近の映画では『アビス』『スフィア』『アルマゲドン』『コンタクト』などの影響も感じる。いろんな映画から面白そうなところをつまみ食いして、それを1本の映画にまとめたという感じだ。監督は華麗な映像サーカスが売りのブライアン・デ・パルマだが、今回は全編にデジタル合成やCGなどのVFXが盛り込まれて、デ・パルマならではの映像ショーを見せつけるのが難しかったかもしれない。デジタル合成の存在を前提にしてしまうと、どんなに高度な映像テクニックを見せられても「それがどうしたの?」と思ってしまうのです。

 物語の舞台は今から20年後。現在の我々にも手が届く未来です。この映画の中の風俗や習慣、科学技術、ファッションなども、現代の延長上にデザインされています。それはオープニングのパーティーシーンで顕著。ガーデンパーティーの場面を現代とまったく同じ風景のように見せ、そこに主人公が電気自動車で乗り付けることで、初めて観客に未来を感じさせるという演出。今の小学生や中学生が大人になった頃は、たぶんこんな風景が当たり前になっているのだろうなと思わせます。映画はこうした日常から、有人火星探査、救出ミッションなどを経て、外宇宙の知的生命体との接触、さらには人類の起源にまで話がスケールアップします。要するに『アポロ13』の登場人物が、気づいたら『2001年宇宙の旅』に紛れ込んだような話なのです。あまり新鮮味はありませんが、これはこれで面白いかもしれない。

 ただしこの映画はエピソードを詰め込みすぎで、それが物語そのものを弛緩させてしまっている。救出隊が二次遭難するという中盤のクライマックスにスリルがありすぎて、主人公たちが火星で発見された古代遺跡の謎を探るという本来のクライマックスがクライマックスとして機能していないのです。その前の事件があまりにも大きかったので、ここで主人公が取る選択にまったく葛藤が感じられない。「はいはい、どうぞご勝手に」という感じになってしまう。物語はスケールアップしたのに、ドラマとしては尻すぼみな印象です。

 SF映画ファンにも、デ・パルマ映画のファンにとっても、かなり物足りない映画だと思いました。

(原題:MISSION TO MARS)


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