チューブ・テイルズ

2000/04/13 シネクイント
ロンドンの地下鉄を舞台にした9人の監督による9話オムニバス。
どのエピソードも粒ぞろい。点心感覚の映画です。by K. Hattori


 ロンドンの地下鉄を舞台にした1時間半のオムニバス映画だが、構成されているエピソード数は9話。つまり1話あたりの所要時間は10分だ。オムニバス映画の企画は多いけれど、1話10分というのは珍しいと思う。9話を9人の監督が演出し、出演者もスタッフも別々に動き、しかもすべてがロケなのだから、これは普通の映画の何倍も手間と時間とお金がかかっていると思う。9つのエピソードを演出しているのは、ベテランから新人まで個性豊かな顔ぶればかり。『ブローン・アウェイ/復讐の序曲』や『ロスト・イン・スペース』のスティーヴン・ホプキンスや、心臓移植をテーマにした異色スリラー『HEART』のチャールズ・マクドゥガルもいる。監督としてのキャリアも持つ俳優のボブ・ホスキンスも1話を演出し、ユアン・マクレガーとジュード・ロウが監督作を発表している。出演者も豪華で、『トレインスポッティング』のケリー・マクドナルド、『ニル・バイ・マウス』『フェイス』のレイ・ウィンストン、『スカートの翼ひろげて』『アイ・ウォント・ユー』のレイチェル・ワイズなどは映画ファンにも馴染みの顔だろう。

 とにかく1話10分なのだ。やれることは小話か一発芸のようなもの。たったひとつのアイデアで、たったひとつのエピソードを演出するしかない。凝った伏線や大勢の登場人物は出てこない。その分どのエピソードも輪郭が明快で、個性的なものに仕上がっている。物語のアイデアは雑誌を使って一般から公募。全部で3000通以上の応募があった中から、監督たちが自分の好きなものを選んだのだという。それぞれ監督も出演者も違うが、撮影監督は3人にしぼって全体の色調を統一している。

 なにしろ9話もあるし全部が粒ぞろいの話なので、どれが好きかは人によって意見が分かれるだろう。コミカルな話、シリアスな話、ファンタジックな話……。僕は導入部に置かれた第1話「ミスター・クール」のバカバカしさと、ボブ・ホスキンス監督の第4話「パパは嘘つき」の生活臭、ユアン・マクレガーが演出した第5話「ボーン」のセンチメンタリズム、第6話「マウス」のスラップスティック調、第8話「ローズバッド」のファンタジー、最終話「スティール・アウェイ」の宗教臭さがお気に入り。最終話は最近ヒットしたある映画に似たオチなのだが、これは途中ですぐにわかってしまう。でも僕は地下鉄の中で足を洗う黒人の少年が面白くて、この映画に肩入れしてしまう。ものすごくモダンな話なのに、まるで聖マルタンの伝説のような話がひょっこりと飛びだしてくるのが面白いのです。

 逆に残念だったのは第2話の「ホーニー」。これはずっとパントマイムで見せていたのに、最後のオチを台詞にしてしまったのが気になる。第3話の「グラスホッパー」も最後のオチに切れ味がない。これは演出次第でもっと面白くなったと思うけどね。ジュード・ロウが演出した「手の中の小鳥」も何が言いたいのかわからない作品で、正直言ってつまんない。でもそれも10分間です。

(原題:TUBE TALES)


ホームページ
ホームページへ