ノー・ルッキング・バック

2000/03/24 FOX試写室
『マクマレン兄弟』『彼女は最高』のエドワード・バーンズ最新作。
今回は女性が主人公の映画になっている。by K. Hattori


 『マクマレン兄弟』『彼女は最高』のエドワード・バーンズ監督・主演最新作。前2作はアイルランド系アメリカ人家庭を舞台に、男兄弟同士の絆や葛藤を描いたホームドラマだったが、今回はローレン・ホリー演ずるヒロインがふたりの男性の間で揺れ動くというラブ・ストーリーになっている。バーンズが演じているのは、数年ぶりに町に帰ってきたチャーリーという男。彼は恋人のクローディアに何も告げずに町を出たまま、親しい友人たちとも長年音信不通になっていた。クローディアはその後チャーリーの親友だったマイケルとつきあい始め、今は同棲3年目になっている。将来は結婚する予定のふたりだが、具体的な時期は未定。マイケルの方はすっかりその気だが、クローディアの側にまだ迷いがあるのだ。マイケルはチャーリーに自分とクローディアの関係を話し、彼女にチョッカイを出さないよう釘を刺すのだが、チャーリーは「選ぶのは彼女の自由」と言わんばかりに彼女に接近して行く。始めは彼を無視していたクローディアも、やがて心を動かされはじめる。

 真面目だけが取り柄の退屈なマイケルを演じているのはジョン・ボン・ジョヴィ。『妻の恋人、夫の愛人』『リトル シティ』などでプレイボーイの印象が強い彼が、今までとは正反対の役を演じているのが面白い。エドワード・バーンズも、過去2作ではどちらかと言えば女性関係に堅い人物を演じていたが、今回は一転してプレイボーイ役である。従来通りのキャスティングで考えれば、ボン・ジョヴィにプレイボーイのチャーリー役をあてがい、バーンズに真面目なマイケルの役を演じさせるのが普通だと思う。しかし本作はその当たり前なことをあえて捨て、それぞれが未体験の役にチャレンジさせている。それがこの映画の見どころなのだ。こうした挑戦が失敗すると目も当てられないが、この映画ではふたりから新しい魅力を引き出すことに成功していると思う。

 この映画も登場人物のほとんどがアイルランド系という設定らしいのだが、『マクマレン兄弟』や『彼女は最高』の時のようなアイリッシュ臭は感じられない。それが過去2作のファンには物足りなく感じるかもしれないが、こうした脱臭効果によって新しいファンを獲得できる可能性がなきにしもあらず。全作までは思い切り男の立場から物語を描いていたのに、今回は女性が主人公という180度の転換ぶりを見せています。僕は今回のこの試みが必ずしも成功しているとは思えないんですが、映画監督としての間口を広げる意味で、一度は避けて通れなかった部分だと思う。今回は製作総指揮がロバート・レッドフォード。案外こうした試練をバーンズ監督に与えたのは、サンダンス映画祭で彼を見出したレッドフォードの意向なのかもしれない。このままバーンズが自分の得意な世界だけを描き続けていると、インディーズという小さな世界の中だけで名人芸を発揮する、よくあるインディーズ映画人になりそうでした。僕は今回の映画を、バーンズの通過点として評価します。

(原題:NO LOOKING BACK)


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