スティグマータ
聖痕

2000/03/22 UIP試写室
現代アメリカで起きた聖痕現象に秘められたバチカンの陰謀。
前半はがんばったけど、後半はデタラメ。by K. Hattori


 ピッツバーグに住むフランキー・ペイジは、23歳の独身女性。ある日彼女は唐突に磔刑のビジョンを見て失神するが、その際、両手首を貫通する深い傷を受けた。それから数日後、フランキーは地下鉄内で再びトランス状態に陥り、背中一面にむち打たれたような無数の傷を受けた。たまたま同じ車両に乗り合わせたカトリックの神父が、これを聖痕現象としてバチカンに報告。奇跡調査のための専門家アンドリュー神父が、調査のためにピッツバーグにやってくる。フランキーが無神論者だと知って、「信仰を持たぬ者に奇跡は起こらない」と調査を打ち切ろうとする神父。だがその目の前で、フランキーは再び新たな傷を受けて血を流し始めた。彼女の周囲で起きるポルターガイスト現象。トランス状態の中で彼女の口からは不思議な言葉が流れ出し、奇妙な文字を部屋の壁一面に書きなぐる。やがて神父は、バチカン内部のタブーとも言うべき驚くべき秘密の存在を知る。

 聖痕とは磔刑のキリストと同じ傷が生きている人間の身体に浮かび上がる現象で、両手と両足の釘の穴、脇腹には槍で刺された傷などが出現して血が流れ出す。この他にも、頭部にイバラの冠の傷、背中にむち打ちの傷などが現れることもあるらしい。どのようなメカニズムでそれが現れるのかは謎だが、歴史上何人もの人々がこのしるしを身体に受けてきた。聖痕は聖性の証明と解釈されることが多いため、刃物で自分の身体に傷を付けて周囲の関心を引こうとする人々も後を絶たないのだが、科学では説明の付かない超常現象としての聖痕も存在する。この映画は聖痕現象についてかなり詳細なリサーチをしているようで、ガブリエル・バーン扮するアンドリュー神父の説明なども理にかなったものだ。「5つの聖痕すべてを受けたものはいない」というのは間違いだけれど、これは「5つめの聖痕が現れる前に謎を解明しなければならない」というタイムリミットのサスペンスを生み出すための嘘。この程度のことには、僕は目をつぶります。あと歴史上はじめて聖痕を受けたのはアッシジのフランチェスコではなく、使徒パウロだと思うけど……。

 映画の前半はなかなか面白かったんだけど、後半は僕のような聖書オタクには「なんじゃこりゃ!」というトンデモ世界に突入してしまう。ローマ・カトリックの正統性を根本から覆すような未知の福音書があって、その存在をバチカンが隠蔽しようとしているというのですが、そこで取り上げられている“真実のイエスの言葉”が「トマスによる福音書」じゃ説得力ゼロ。この異端の福音書は、聖書について学んだことのある人なら誰でも知っているポピュラーなものだし、日本でも文庫本で簡単に手に入れることができる。今さらバチカンが翻訳に圧力をかけたって無意味だと思うけどな。

 結局この映画は「死海文書の謎」などと同じバチカン陰謀説をまき散らして終わる。前半がしっかりしていただけに、後半のデタラメぶりが残念でならない。映像的には見るべきところの多い作品ですけどね。

(原題:STIGMATA)


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