スリー・キングス

2000/03/06 ワーナー映画試写室
秘密の地図を手に入れた兵士たちが宝探しに出かける。
湾岸戦争批判がチラリホラリ。でも笑えない。by K. Hattori


 湾岸戦争にアメリカの地上軍が本格投入されたとき、既に戦争らしい戦争は終わっていた。というより、空爆やミサイル攻撃主体の湾岸戦争では、地上軍などそもそもお呼びじゃなかった。「なんで俺たちこんなとこにいるんだよ〜」とぼやいている兵士たちの士気はきわめて低い。かといって、戦争そのものがないのだから軍規が乱れることすらない。兵士たちの間にあるのは、弛緩しきった空気と倦怠感だけ。「何か面白いことないのかよ〜」と思っていた矢先、イラクの捕虜が持っていた1枚の地図を発見。そこにはイラク軍がクウェートの銀行から運び出した、膨大な金塊の隠し場所が記されていた。暇を持て余していた兵士4人は、この金塊をくすねることを考えたが、地図の上と現場とは大違い。まんまと金塊は手に入れたものの、4人の兵士はイラク正規軍と反フセイン派ゲリラの争いに巻き込まれてしまう。

 はみ出しものの兵士たちが秘密の地図を手に入れて宝探しをする話は、1939年の映画『ガンガ・ディン』がオリジナルだと思う。予告編やあらすじから僕はこの映画が『ガンガ・ディン』のリメイクだとばかり思っていたのですが、その件に関してこの映画にはまったくクレジットされていません。話の筋立てもかなり違うし、テーマも異なる。ほぼオリジナルと言っていいでしょう。しかし作り手が『ガンガ・ディン』をかなり意識しているのは明らか。宝探しに出かける一行の人数は4人だし、その中のひとりが敵に捕らえられるのも同じ。案外この映画は『ガンガ・ディン』のリメイクとしてスタートし、紆余曲折を経てこんな形に落ち着いたのかもしれない。

 この映画の見どころはその映像。増感現像したようなコントラストの高いざらついた映像が、最初から最後まで続く。この手の映像はCMやMTVではよく見かけるし、普通の映画の中でも回想シーンや幻想シーンの中で見かけることがある。しかしそれを、最初から最後まで通してしまったのはこの映画が初めてかもしれない。空気の湿度を感じさせない、乾いたタッチの映像です。しかしこの映像センスに比べると、お話の方はあまり面白くない。これはシリアスなのか、それともコメディなのか。そんな基本的なことすらわからない。

 この映画には、湾岸戦争への介入に象徴されるアメリカの外交政策を皮肉ったり、批判したりする場面がいくつか登場します。イラク人のアメリカ批判にマーク・ウォルバーグ扮する若い兵士が答えているうち、その答えがあまりにも空虚で言葉が空回りしてきてしまう場面などは、この映画のハイライトかもしれない。映画のクライマックスは、紛争に介入しながらそこで暮らす人たちの暮らしをまったく考えないアメリカの身勝手さがたっぷりと描かれている。こうした場面があることから、この映画を支持する人が大勢いるであろうことはわかる。でも僕は、この映画でこんなに中途半端な政治メッセージは不要だと思う。政治批判以前に、もっと笑わせて欲しいし、もっとワクワクさせて欲しい。

(原題:THREE KINGS)


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