太陽のいざな

2000/02/14 メディアボックス試写室
1950年代のスウェーデンを舞台にした中年男の純情物語。
北欧の夏の太陽に照らされる風景の見事さ!by K. Hattori


 映画『旅情』の脚本家としても知られるイギリスの小説家H・E・ベイツの短編小説「小さな農場」を、'50年代スウェーデンの物語に翻案したラブ・ストーリー。母親が死んで以来10年間、たったひとりで小さな農場を切り盛りしてきたオロフは40歳の独身男。近所づきあいも少なく引っ込み思案の彼は、ある日新聞に家政婦募集の広告を出す。「当方は39歳の農夫。車あり。若い家政婦を求む。写真同封希望」。これは女性と知り合うチャンスの乏しいオロフにとって、かなり思い切った行動だった。数日後、彼の前に現れたのはエレンという美しい女性。オロフは一目で彼女が気に入ってしまう。都会的で洗練されたエレンが、なぜ田舎の農場で家政婦をやる気になったのか。その理由は最後まで明白でない。どうやら彼女は、それまでの生活を捨てて逃げてきたらしい。そんなことが、何となく察せられれば充分なのだ。

 オロフは最初から、自分の花嫁探しのために新聞広告を出している。これは「若い家政婦」を求めたり、「写真同封希望」だったりすることからも明白だ。しかしこれは、家政婦募集に名を借りて女性をだましているわけではない。これが彼にできる精一杯のことだから、彼はそうしただけなのだ。オロフは「家政婦募集」をいいわけにしているものの、その本音は広告を引き受けた新聞社の人も気づいているし、牧師も気づいているし、友人も気づいている。もちろん、この募集広告に応募してきたエレンだって、何となく察しはついているのだろう。

 この映画は、人間の強さと弱さについて描いている。オロフは女性とつき合った経験もないし、文字もろくすっぽ読めない。でもエレンは彼を評して「本物の男」だと言う。映画を観ている側も、最初は大きな子供のように見えたオロフが、少しずつたくましい大人の男性に見えてくるはずだ。彼の唯一の友人であるエリックは、アメリカで数年間暮らしたことを自慢している伊達男。エリックはオロフから金を借りて、車や場所を購入したり、競馬につぎ込んだりしている。彼のアメリカ体験談も、ほとんどが周囲に大げさに吹聴しているだけのデタラメらしい。エリックは悪い人間ではない。彼はオロフのことが大好きだし、その友情に偽りはないのだろう。だが、彼は同時に弱い人間なのだ。ではエレンはどうなのか? 彼女は都会から田舎に逃げ込み、オロフの保護を求める弱い人間として映画に登場してくる。しかし彼女はオロフと愛し合うことで、強い人間に変身する。それはオロフも同じだ。彼はエレンと愛し合うことで、自分に自信を持ち始める。「愛」が人間を強くするのだ。

 スウェーデンでは大ヒットした映画らしいが、監督も出演者たちも日本ではほとんど無名。しかしこの映画に描かれる風景の美しさには、思わずため息が出そうになる。北欧の夏は夜遅くなっても日が沈まない。低い太陽に照らされて外の風景が金色色に輝くなか、ベッドに入って眠るのだ。なんともロマンチック。この風景を観るだけでも、この映画には価値がある。

(原題:UNDER SOLEN)


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