アメリカン・ビューティー

2000/02/14 UIP試写室
ケヴィン・スペイシーのオナニー場面が2回も見られるコメディ映画。
すごくよくできた映画だけど、それだけという気も……。by K. Hattori


 身の回りには必要なものがすべて揃った、何不自由のない生活。夫婦に娘ひとり。郊外の住宅地に一戸建てのマイホーム。夫は広告会社勤務。子供が成長して手が放れてからは、妻が不動産販売業に乗り出してそこそこの稼ぎも上げている。思春期の娘は最近すっかりかわいげがなくなり、父親を薄汚いケダモノを見るような目つきでながめている。これが典型的なアメリカ中流家庭。しかし彼らは家庭の中に「愛」を見つけられず、やがて家庭は崩壊する……。なんだか身近すぎる素材と救いようのない話で憂鬱な映画になりそうなのだが、これが何とも痛快なコメディ。といっても、甘ったるいラブコメや胸のすくドタバタではなく、かなり辛辣で毒のある喜劇になっているので、これを観て笑えない人も多いと思う。

 僕はこの映画からワイルダーの『サンセット大通り』を思い出した。死人が自分の人生を回想するという構成が同じだし、登場人物たちの怪物ぶりや悲劇性がギャグになるという作りもそっくり。ただし『サンセット大通り』の主人公はナレーターであるプールに浮かぶ死体ではなく、最後に発狂するサイレント時代の大女優だった。だが『アメリカン・ビューティー』の主人公は、最後まで語り手でもある主人公本人だ。

 主人公のレスターを演じるのは、ハリウッドでナンバーワンの曲者俳優ケヴィン・スペイシー。この男、画面に登場した瞬間に死の宣告を受けます。それを宣言するのはスペイシー自身。つまり本人が死んだ後、自分の人生を回想しているという趣向です。映画を観ている方は当然、彼がどんなに劇的な人生を送って死ぬのだろうかと、ドキドキしながらその後の成り行きを見守っている。ところが朝目覚めた彼が最初にやることは、シャワーを浴びながら心おきなくオナニーすることなのです。この時点で引いてしまうか笑えるかで、この映画の観客はふるいにかけられる。僕は当然笑いました。こんなに情けない主人公が、今までにあったでしょうか。

 この映画が笑いの対象にしているのは、人間が誰しも持っている弱い部分や身勝手な部分です。主人公のオナニーしかり、娘の同級生への性的妄想しかり、その妄想に引っ張られて突然エクササイズを始めてしまうところもしかり。映画はこうした人間の「隠された側面」を完膚無きまでに暴き出し、徹底的に笑いのめす。これは主人公の妻に対しても同じ。彼女が仕事でストレスを溜めてメソメソ泣いたり、欲求不満が高じて同業者と不倫関係になったりする場面が、とにかくおかしい。こうした弱さは人間なら誰しも持っているものなのに、それを指さして笑うとはそうとう意地悪だ。ところが映画の最後では、こうした人間の弱さが愛すべきものへの逆転する。

 主人公を幻惑させる金髪のロリータが、惜しげもなく脚や胸を露出する大サービス。演じているミーナ・スバーリは、なんと1978年生まれで21歳。どう見てもティーンエイジャーにしか見えないけど……。う〜む、女の年はまったくわからんなぁ。

(原題:AMERICAN BEAUTY)


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