源氏物語
あさきゆめみし
Lived in a Dream

2000/02/08 イマジカ第1試写室
源氏物語を漫画化した大和和紀の同名コミックを映画化。
登場人物をすべて宝塚の女優たちが演じる異色作。by K. Hattori


 源氏物語の世界を描いた大和和紀の少女コミック「あさきゆめみし」を原作にした、平安王朝が舞台の壮絶な恋愛ドラマ。監督は『MISTY』で同じく平安時代を描いた三枝健起。音楽は『MISTY』でも音楽を担当した三枝成章が担当している。今回の映画でユニークなのは、出演者がすべて宝塚歌劇団の現役女優だという点。主人公の光源氏を演じる愛華みれを筆頭に、宝塚花組の女優たちがぞろぞろ登場。宝塚は僕の守備範囲外なのでキャストの顔ぶれを見てもときめいたりはしませんが、雅やかでちょっとシュールな源氏物語を映画化するには、こうした大がかりな仕掛けがあった方がいいような気もします。源氏物語の背景になっている平安時代は、現代の日本とは風俗習慣が違いすぎて、そのままリアリズムで物語を作ってもテーマがよくわからなくなってしまう。女優が男性を演じるという仕掛けによって、映画と観客の間に一定の距離感が発生し、そこにいろいろなイマジネーションが発生する余地が生まれてきます。こうした手法は金子修介の『1999年の夏休み』でも採られていたものだし、逆に男性が女性も演じる『百合の伝説/シモンとヴァリエ』という映画もあった。こうした作品では映画の中の約束事を観客が受け入れることで、観客自身が物語の成立に加担することになるわけです。

 どうせこうした仕掛けを作るのであれば、映画の世界観をすべてこのタッチで押し通せばいいのだが、それが徹底できないのはセットや衣装に新たなお金をかけられないからでしょう。この作品の撮影は、岩手県江刺市にある「歴史公演えさし藤原の郷」で行われています。これは大河ドラマ「炎立つ」の撮影にも使われたというパーマネント・セットのようなもので、映画で観る限り、かなり本格的な建築物のようです。でも僕はこの映画に関しては、セットはもっと簡素で抽象的なものの方がよかったと思う。リアリズムを離れた別種のリアリズムの中でこそ、宝塚の女優を使うというアイデアが生きてきたのではないだろうか。例えばそれは、アルフォンソ・クアロン監督が『リトル・プリンセス』で見せたような作り物のリアリズム。『百合の伝説』で描かれた、虚構で塗り固められた完璧な作り物の世界。地べたに足を着けた我々の日常の延長にあるリアリズムではなく、それとは距離を置いた別種のリアリズムで異世界を再現してほしかったのです。

 映画の導入部からしばらくは、原色の照明やカメラに直接写り込むスポットライトの効果、銀レフや鏡で強い反射光を取り入れる工夫、画面の中に降り続ける桜吹雪などによって、映画の中にある種の異世界を作る意図が見えた。これをもっと徹底してほしかった。この映画に必要なのは、極端に整理された様式美なのです。監督もそれに気づいているからこそ導入部の演出があるのでしょうが、これはもっと大げさにしていい。女優のメイクも、完全な白塗りで通した方がいいと思うけど。中途半端なリアリズムが、物語を殺してしまいました。


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