MONDAY

2000/02/07 シネカノン試写室
『弾丸ランナー』のサブ監督最新作。主演は堤真一。
導入部から中盤まではピカイチ。でも惜しい。by K. Hattori


 『弾丸ランナー』のサブ監督最新作。世の中には酒に酔って記憶を失う人と、どれほど酩酊してもその間の記憶をきちんと覚えている人間の2種類が存在する。僕は後者だが、この映画の主人公・高木光一は典型的な前者だった。ある朝ホテルのベッドで目覚めた主人公は、自分がなぜそこにいるのかまったく覚えていない。どうやらしたたかに酔っぱらったあげくホテルにたどり着いたようなのだが、その子細をまったく記憶していないのだ。彼はポケットに入っていた塩やマッチから、少しずつ失われた記憶をたどりはじめる……。

 主演はサブ監督のすべての作品に主演している堤真一。平凡な主人公がふとしたきっかけでとんでもない事件に巻き込まれるという、いつもながらのサブ・ワールドだ。今回は主人公が少しずつ過去を思い出すという、今までにない形式の映画になっている。4作目にして新しいことにチャレンジしている意欲を大いに買いたい。出演者の顔ぶれにも新しいメンバーが増え、サブ監督は少しずつ自分の守備範囲を広げているように思える。

 今回の映画は、序盤の滑り出しが素晴らしい。特にお通夜の場面の組立と演出は絶品で、主人公がのっぴきならない状況に追い込まれていく様子が、じつに説得力を持って描き出されている。あり得るはずのない出来事があり得てしまうという映画の嘘を、しっかりと堪能できるエピソードです。これには笑いました。ところが映画の完成度はここだけが異様に高く、あとは徐々に崩れていつものサブ作品になってしまう。主人公がバーで野田秀樹と会って笑いが止まらなくなってしまう場面までは辛うじて導入部同様のテンションを保っているのですが、トイレで踊り出したあたりから少しダレてきて、ショットガンでヤクザたちを脅すあたりになると、導入部の素晴らしさが嘘のように凡庸なシーンの連続になってしまう。脚本の上では、主人公の記憶欠落をテレビニュースで補わせるなど、いろいろな工夫をしているのがよくわかる。ところがこれが、いかにも「うまいでしょ?」という嫌味な描写に見えてしまうのです。お通夜の場面はあんなにさりげなくアクロバットを演じていたのに、この中間部でこれ見よがしの映画になるのは残念。

 サブ監督の映画は凝縮したシチュエーションから出発して、少しずつ物語がばらけて行くのが特徴だと思う。導入部からしばらくは緻密なエピソードの構成で観客をがっちりつかんでいるのですが、途中からは映画のノリやスピード感だけで突っ走ってしまう。途中に面白い場面もたくさんあるんだけど、最後のオチがいつも弱い。今回の映画もそれは同じ。これがハリウッド映画なら、主人公を徹底的に窮地に追い込みながらも、そこからどう脱出させるかに知恵を絞り抜くでしょう。でもサブ監督の映画は、そこまで考えることなしに主人公を自滅させてしまう。これがじつにもったいない。きちんとしたハッピーエンドが描けるようになれば、サブ監督はもっと大きな映画も撮れる監督だと思うんですけどね。


ホームページ
ホームページへ