マーシャル・ロー

2000/01/31 FOX試写室
頻発するテロに対抗してアメリカがNYに戒厳令を発令!
アイデアは面白いけど脚本にガタツキがある。by K. Hattori


 『グローリー』『戦火の勇気』のエドワード・ズウィック監督最新作。主演は前記2作品にも主演したデンゼル・ワシントン。現代のニューヨークを舞台に、続発するアラブ人過激派のテロと、それを阻止しようとするFBI捜査官の攻防を描くアクション映画。拡大するテロを警察だけでは阻止できなくなり、大統領はついにニューヨーク全市に戒厳令を発布する。邦題の『マーシャル・ロー(Martial Law)』とは戒厳令の意味だ。映画の中では、親アラブ派のCIA情報部員をアネット・ベニング、戒厳令を指揮する軍の責任者をブルース・ウィリスが演じている。最初は昨年夏頃に公開される予定だった映画だが、公開が延び延びになってようやく公開にこぎ着けた。といっても、公開規模は小さめだ。最初は「内容がかなりヤバイらしい」という話も聞いていたのだが、それ以前に映画の中身に問題アリです。

 オープニングは結構期待できそうだった。アラブ人過激派組織のリーダーをアメリカ軍が不法に拉致し、その直後から、ニューヨークで爆弾テロが起き始める。犯人側の要求は「彼を釈放しろ」の一点張り。しかし要求を突きつけられたFBIには、それが何の意味なのかさっぱりわからない。自爆した実行犯の遺体から身元を割り出したFBIは、その入国ルートを探ることで少しずつ犯行グループの実態に迫っていく。だがその前に立ちふさがったのは、CIAの捜査官だった……。

 映画の序盤は『パトリオット・ゲーム』や『今そこにある危機』と同様のポリティカル・サスペンスの雰囲気。しかしこの映画の欠点は、描かれているテーマが序盤・中盤・終盤でコロコロ変わって一貫性がないことだ。映画の序盤で描かれているのは、FBI・CIA・軍の間で捜査協力がまったく行われず、情報を互いに独占している状況。こうした縦割り組織では、大都会をゲリラ戦の戦場にする組織的なテロ犯罪に、まったく太刀打ちできない。映画の中盤になって登場するのは、アメリカ社会を分断する民族イデオロギーや差別の問題。アラブ人過激派の活動によって、アメリカ国内のアラブ人コミュニティーがバッシングを受ける。映画の終盤では、アメリカを支える民主主義理念の大切さや尊さが描かれる。こうしたテーマは、それぞれがまったく重なり合うことなく、次々に現れては消えていく。

 この映画では、登場人物たちの行動指針もまったく不明快。デンゼル・ワシントン演じるFBI捜査官が、事件を解決したい、犯人を捕らえたいという動機で行動しているのは明快そのもの。しかしアネット・ベニングは一体何をしたいのか? ブルース・ウィリスは何が望みなのか? もう少し人物の行動を整理してほしかった。

 スケールの大きな物語の割には、状況を台詞で説明してしまう場面が多い。テロに対する不安でニューヨーク中が悄然としている場面では、効果的なカットを2,3インサートするだけで、物語のスケールがもっと大きく膨らんだと思うのだが……。

(原題:THE SIEGE)


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