九ノ一金融道

2000/01/14 東映第2試写室
清水美砂主演の金融コメディだが、コリャつまらなすぎる。
普通に作ればもう少し面白くなるだろうに。by K. Hattori


 清水美砂が街金の社長を演じる、女性版『ミナミの帝王』。タイトルの「九ノ一」というのは、法外な利息の代名詞である“十一(といち)”より過酷な、九日で一割の利息という意味。主人公が忍術使いという意味ではないのだが、いっそのこと忍術使いにしてくれた方が、この映画は面白くなったに違いない。監督は『集団左遷』『オサムの朝』の梶間俊一。『オサムの朝』が気に入った僕としては、この映画の仕上がりぶりにまったく納得できない。出演者はヒロインの清水美砂以下、石橋蓮司、夏木マリ、斉藤洋介、せんだみつお、坂井敏也、高杢禎彦、北原雅樹、小野砂織といった顔ぶれで、まあ、極端に下手くそな人というのはいない。監督もきちんと実績のある人です。この映画の場合、脚本に問題があるのは一目瞭然。美人街金業者というアイデアは面白いのだから、もっときちんと話を作ってほしい。そうすれば、シリーズ化することだってできるのに……。

 そもそもこの映画の致命的な欠点は、清水美砂演じるヒロインの三枝麗子が、計算高い貸付と冷酷な取り立てで利を得る、凄腕の街金業者には見えないことだ。決して情に流されず、金にしか興味のない女という設定なのに、街で出会った甘ちゃんの無職青年をお情けで雇う、金を貸した客が別の借金で苦しんでいれば、それを助けてやろうと自らが危ない橋を渡る。タイトルにもある「九ノ一」の貸付はとうとう画面に登場しない羊頭狗肉ぶりだし、映画のクライマックスである債権の踏み倒しも、やけっぱちで一か八かの勝負をしているだけで計算というものがまったくない。主人公の営業スマイルは別として、彼女の仕事ぶりはあくまでもビジネスライクに、女を感じさせない冷徹さを見せる必要があるだろう。なのに最初からこの映画は、ヒロインが男に媚びを売るような甘ったれた声を出すばかりなのだから興ざめする。

 金融業者である主人公のすぐそばに、その道にはまったく不案内な人物を配置するとか、主人公と過去に関わりを持つ男を登場させて“過去の謎”に含みを持たせるとか、金主の夏木マリとヒロインを対比させるなど、作劇場の定石はきちんと踏んでいる。しかしそんなことはプロット作りの第一歩であって、問題はそうした人物たちが映画の中でどう動き回り、活躍するかにかかっているのだ。バッターボックスに打者が入っても、バットを振らないのでは話にならない。野手の真正面にボールが転がって行っても、野手が捕球動作をしなければボールはそのまま後ろに抜けていく。この映画がやっているのは、まさにそういうヘボ野球と同じだ。

 映画には当たりはずれがある。それは僕だって十分にわかっている。でもプロなら、ボールが来たときバットぐらい振れ。捕球する意思ぐらいは見せろ。その上で三振したりエラーしたのなら、こちらはあきらめもつく。残念だったとねぎらいの言葉もかけたくなる。でもこんなにやる気のない映画を観せられると、ガッカリを通り越してしまうんだよね……。あ〜あ。


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