ブルー・ストリーク

2000/01/12 SPE試写室
高価なダイヤを取り戻すために、泥棒が刑事に変装するのだが……。
マーティン・ローレンス主演のコメディ。これは傑作。by K. Hattori


 仲間と共に時価2千万ドルとも言われる巨大なダイヤ“ブルー・ストリーク”を盗み出したマイルズだったが、仲間のひとりディーコンが宝石の独り占めを狙って裏切ったことから、あっけなく警察に逮捕されてしまう。だが彼は逮捕される直前、逃げ込んだ建設中のビルの中にダイヤを隠しておいた。だがそれから2年後に出所したマイルズは、建設中だったビルが警察署になっているのを知る。中に潜り込むのに一番簡単な方法は何か? それは刑事に成りすますことだ……。

 今では大スターになったウィル・スミスと『バッドボーイズ』でコンビを組み、ティム・ロビンスと共演した『ナッシング・トゥ・ルース』も印象に新しい黒人スター、マーティン・ローレンスの主演映画。監督は『フラバー』のレス・メイフィールド。1時間半ほどの短い映画だが、これが滅法面白い。凄腕の泥棒が刑事に成りすまし、過去の職業経験を生かして次々に事件を解決。警察署内で一躍アイドルになっていくという単純なアイデア。しかしこの単純なアイデアを成立させるために、細かな工夫をいろいろ仕掛けている。主人公がなぜ警察署に潜り込まなければならなかったのか? 主人公がなぜ刑事に化ける必要があったのか? 主人公は最新の警備システムさえ破れる凄腕の泥棒なのだから、警察署に忍び込むことなど雑作のないことのようにも思える。しかしそうした部分で「まてよ?」と観客に考える隙を与えないのが、この映画の上手さなのだ。その場しのぎの嘘でも、観客を3分間だけだませればいい。観客が「まてよ?」と思い始める前に次のエピソードに入ってしまえば、観客はその前の小さな嘘に絶対気づかない。こうして小さな嘘を積み重ねながら、最後には大きな嘘をまんまと信じさせてしまうのだ。

 嘘つき男の破れかぶれな言動を、周囲が常に好意的に解釈してくれる面白さ。主人公は犯罪捜査の経験と度胸の良さを買われて主任刑事になり、はてはFBIからも一目置かれるようになる。この誤解のプロセスがいちいち面白い。さらにこの映画が痛快なのは、主人公の嘘の中に常に一片の真実があるということ。主人公は嘘を付いて周囲をだましながら、いつしか周囲の刑事たちの期待に応えようとし始める。隠したダイヤを取り戻したいという徹底した利己的動機の周囲に、モヤモヤとした別の感情がわき上がってくる。それは「正義感」などという手垢の付いた倫理観ではない。「この期待に応えなければ男がすたる」とでも言うような、侠(おとこ)としての誇りのようなものかもしれない。逃げだそうとすればいつでも逃げ出せるのに、マイルズは仲間になった刑事たちを助けるために身体を張るのだ。

 最初から最後まで無駄のない脚本。会話もいちいち洒落ているし、アクションシーンも要所にからめて少しもダレることがない。最後のオチはチャップリンの映画からの引用かな。本当に面白かった。しかしこの手の映画は、「ビデオで十分」という人も多いんだろうなぁ……。

(原題:BLUE STREAK)


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