13F

2000/01/11 SPE試写室
ヴァーチャル・リアリティの中の生命が自意識を持った……。
珍しく正統派のSFファンタジー。「ループ」みたい。by K. Hattori


 きわめて精巧なヴァーチャル・リアリティ技術を開発した技術者が、何者かに殺される事件が起きる。被害者のハノン・フラーは殺される直前、部下であるダグラス・ホールに何か重大なメッセージを伝えようとしていた。警察は会社を相続するダグラスを容疑者としてマークするが、本人には犯行当時の記憶がない。会社にはフラーの娘だという若い女も訪れ、ダグラスは混乱するばかりだ。ヴァーチャル空間の中に手がかりがあると考えた彼は、巨大コンピュータの中に再現された1937年のロサンジェルスへと侵入を試みるのだが……。

 原作はダニエル・F・ガロイの小説「模造世界」。バーチャル・リアリティをテーマにした映画は今までに何本も作られているが、この映画はバーチャル空間の中でシミュレーションされた人間たちが自意識を持ち、自分たちが電気仕掛けの模造品であることに悩むという点がユニーク。もっともこうしたテーマはフィリップ・ディックにもあっただろうし、「リング」「らせん」の続編である鈴木光司の「ループ」でも、コンピュータでシミュレーションされた人口世界がテーマになっていた。コンピュータ内部でのシミュレーションや、人口生命体、ヴァーチャル・リアリティといった最新のデジタル・テクノロジー技術は、作家の哲学的想像力を刺激するらしい。今回の映画もコンピュータ技術を単なる絵作りのアイデアに使うだけでなく、そこから人間存在の本質まで掘り下げて行こうという試みが見える。

 「世界全体が何物かに創造されたものである」というアイデアは日本人にはユニークに思えるかもしれないが、欧米人にとっては古くから馴染みのものだ。キリスト教ではこの世界を、神が7日間で作ったと考えている。神は全知全能で、この世のありとあらゆる物事を知り尽くし、この世のありとあらゆる物事に介入することができる。こうしたユダヤ・キリスト教的な世界観を現代流にアレンジしたのが、ヴァーチャル空間での世界のシミュレーションなのではないだろうか。この映画の中で登場人物たちが抱える悩みは、クリスチャンが神に定められた運命や未来と、自分自身の自由意思との間で揺れ動いていることの写し絵になっているのだと思う。

 プロデューサーがローランド・エメリッヒだというので、もっとバカな映画かと思っていたら、ストレートなSF映画で意外だった。SF映画だと思っているのに、オープニングが'30年代のロスだというのも意外。名優アーミン・ミューラー・スタール演じる男が、映画の冒頭でいきなり殺されてしまうのも意外だ。こうした二重三重の仕掛けで、僕は物語に最初から引き込まれてしまった。監督・脚本のジョゼフ・ラスナックは、エメリッヒと同じドイツ出身。主演のクレイグ・ビアーコもグレッチェン・モルも馴染みのない俳優だが、話が面白いので途中からは彼らにすっかり感情移入してしまった。途中からは最後のオチまで読めてしまいますが、それもまたよし。意外に拾いものの映画です。

(原題:THE THIRTEENTH FLOOR)


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